理念体系が出来ていて、行動レベルの事項にも言及があればこの定義自体は難しくはありません。その理念を実践している人材があるべき人材ということになるからです。
しかしながら、現実的には多くの企業では、理念体系が形成されていく過程はまちまちであり、社是、経営理念、経営方針、行動規範、あるいはパーパス、ミッション、ビジョン、バリューの整合不足や、言葉の繰り返し、重複があったりします。よって、明確に行動レベルで人材像と紐づいている企業はそう多くはありません。
さらに、グローバル化やM&Aによって異なる企業文化を取り込んでいる場合、グループ各社において、適用自体にどのような時間をかけ、どの深さまで徹底するかといったことも考えねばなりません。
したがって粘り強く、理念に紐づくあるべき人材像を行動レベルに落とし込み、あるべき人材を育成していく仕組みをつくるのが人事部門の重要な役割ということになるわけです。
人事部門は、創業以来のわが社やグループ会社の歴史をひも解き、なぜ今のような理念体系ができているのかを誰よりも詳しく知る必要があります。理念体系は創業者の経営の理想であったり、また合併によってできた企業グループであれば統合されてきて折衷的なものになっていたりする背景もあるでしょう。
さらに重要なのは明文化されているものでだけではなく、言語化されていない価値観や成功(失敗)体験も織り込んで、わが社ならではの人材の行動レベルの特性を明らかにしていくことです。
例えば、企業の歴史の中で、倒産の危機に瀕した時、ある共通行動が突破口となり、危機を脱したという経験がある企業も存在します。そのときの教訓が企業に根付いていたりする場合があります。よって、そのようなものを丁寧に拾っていくのです。
発掘していく場合には、社内広報誌、昔の会議資料等を収集し、それらをもとに経営者や役員インタビューをしてみるのもよいでしょう。
さて、わが社の人材にふさわしいあるべき人材像が明文化できるものとして見えてきたら、行動規範やバリューに追加していったり、理念の解説マニュアルを作ったりして、言語化して残していくことが重要です。なぜなら、これが人材育成時の拠り所になるからです。
次は、そのあるべき人材がもっているべき能力とはどのようなものなのかを考えます。 |